【現場から学んだリアルな症例1】中学生スイマーの“膝の痛み”が教えてくれたこと
「ちゃんと立ち上がれるようになったんです」
これは、ある14歳の男子中学生(バタフライ専門のスイマー)とのやり取りから生まれた学びです。
県大会を翌日に控えた彼は、右膝の外側にジンジンとした痛みを抱えながら、僕の前に現れました。整形外科では「骨には異常なし」と言われたものの、本人は「言ったら試合に出られなくなる」と膝の痛みを隠していたのです。
■ 表面の痛みと“本当の原因”は違うことがある
彼の訴えは一見シンプル。「右膝が痛い」。 でも、詳しく話を聞いてみると、歩く、ダッシュする、バタフライのキック、階段の上り、低い椅子からの立ち上がり…など、さまざまな動きで痛みが再現されていました。
一方で、しゃがむ動作は大丈夫。 違和感が出るタイミングや動き方のクセを、ひとつずつ拾っていく必要がありました。
■ 仮説を立てては壊す、の繰り返し
評価をしていく中で見えてきたのは、
- 股関節や体幹の回旋で痛みが出る
- パテラ(膝蓋骨)の位置が外側に偏位している
- 筋出力が弱く、特に内側広筋(VMO)の収縮が遅い
などの「動きの不安定さ」や「筋肉の使い方のアンバランス」でした。
また、神経が過敏になっているような反応もあり、「神経障害性疼痛」や「滑液包の摩擦」など、複数の仮説が立ちました。
■ 治療=“動きを再教育する”こと
最終的に選択したのは、筋肉に刺激を入れながら、動作の質を変えるアプローチ。
10cmの台の上に右足を乗せ、しゃがみ込む→立ち上がる動作を遠心性でコントロールしてもらいました。
これだけで、立ち上がり動作時の痛みは再現されなくなりました。
大事なのは「いきなり強化すること」ではなく、
- どの動作で
- どのタイミングで
- どんな力の使い方をしているか
を、本人が“意識できる形”で再現してもらうことだったのです。
■ 「治った」よりも「納得した」が価値になる
僕たち施術者がやりがちなのは、「痛みをゼロにすること」だけを目指すこと。 でも、
なぜ今痛いのか? なぜ以前は痛くなかったのか? これからどうしたらいいのか?
これを本人自身が納得できるようになることのほうが、よほど価値がある。
彼は最後に、 「立ち上がるときに怖くなくなった」 と言って、少し笑いました。
■ この経験を、同じように悩む人へ
今、同じように悩んでいる人がいるかもしれません。
- 子どもの膝の痛みをどう判断すればいいのか迷っている親御さん
- パフォーマンスを落とさずに痛みに向き合いたいジュニアアスリート
- 評価・仮説・治療の精度を高めたい若手セラピスト
そんな方に、今回の経験が少しでも届けばと思って、この記事を書きました。
「今ある痛み」をきっかけに、「これからの動き」を一緒に見直していけたら嬉しいです。