股関節の奥がズキズキする:変形性股関節症・股関節唇損傷の早期発見と対処
2026/4/10
この記事で分かること
- ✓股関節の奥のズキズキ・鼠径部痛で疑う股関節唇損傷・変形性股関節症
- ✓腰痛や成長痛と混同されて診断が遅れやすいこと
- ✓ヒップヒンジ習得と外旋筋強化による早期対処
「股関節の奥がズキズキ痛む」「長時間座っていると脚の付け根が痛い」「脚を内側にひねると痛みが出る」「スポーツ中に股関節がひっかかる感じがする」——こうした症状は股関節唇損傷(こかんせつしんそんしょう)や変形性股関節症のサインかもしれません。
股関節の痛みは「腰痛」や「脚の付け根の痛み」と混同されやすく、原因の特定が遅れがちです。若いアスリートでは「成長痛」と片付けられて見逃されることもあります。しかし早く見つけて早く対処すれば、多くのケースで手術を避けられます。
私は愛知県の理学療法士 木村晋一朗です。本記事では、股関節の奥の痛みの正体、痛む場所からの見分け方、そして理学療法で何ができるのかを、臨床でみてきた実例をもとに解説します。
- 股関節唇損傷と変形性股関節症の違いと共通点
- 股関節痛の「場所」から考える原因の見分け方
- 理学療法士による評価と治療アプローチ
- 大腿骨のすべりのクセとFAI(股関節インピンジメント)の関係
- スポーツ復帰のためのリハビリと日常生活での注意点
股関節のつくりと「なぜ痛みが起こるか」
股関節は、骨盤側の受け皿(寛骨臼・かんこつきゅう)に、太ももの骨の丸い頭(大腿骨頭)が深くはまり込んだ関節です。体重を支えながら大きく動く、働き者の関節です。受け皿のフチには関節唇(かんせつしん・ラブラム)という軟骨のパッキンが一周していて、関節を安定させ、圧力を分散する役割をしています。このパッキンが挟まれたり擦れたりして傷むのが股関節唇損傷です。
股関節痛の主な原因——痛む場所で見当をつける
| 疾患・状態 | 典型的な痛みの場所 | 多い年齢・タイプ |
|---|---|---|
| 股関節唇損傷(ラブラム損傷) | 脚の付け根〜股関節の前側 | 若年〜中年スポーツ選手 |
| FAI(股関節インピンジメント) | 脚の付け根・股関節の前側 | 若年〜中年、スポーツ選手 |
| 変形性股関節症 | 脚の付け根〜太ももの前・外側 | 中高年、女性に多い |
| 大転子疼痛症候群 | 股関節の外側(骨の出っ張り周辺) | ランナー・中年女性 |
| 腸腰筋炎 | 脚の付け根〜太ももの前 | ダンサー・マーチング選手 |
FAI(股関節インピンジメント)と関節唇損傷の関係
FAIとは、骨の形の個性によって、太ももの骨と受け皿のフチが繰り返しぶつかり(インピンジメント=衝突)、間に挟まれたパッキンや軟骨が傷んでいく状態です。ぶつかり方で3タイプに分かれます。
- Cam型:太ももの骨の付け根に出っ張りがある→深く曲げてひねると受け皿のフチにぶつかる
- Pincer型:受け皿が深すぎる→フチが繰り返し挟まれる
- Mixed型:両方の合併
大事なのは、FAIは「形」の話であって、形そのものは変えられなくても、ぶつかる動かし方を避けることはできる、という点です。ここが理学療法の出番になります。
理学療法士による評価と治療
私が担当したマーチング部の16歳の女の子は、右脚の付け根にじっとしていても10段階の3ほどの痛みがあり、長時間の立ち練習や脚を高く上げる行進動作でつらくなっていました。
①いつ・どの動きで痛むかを確かめる
痛むのは右の脚の付け根(股関節の前側)。長時間の立位、行進の脚上げ、しゃがみ込みで悪化していました。
②太ももの骨の「すべりのクセ」を調べる
股関節を曲げるとき、本来なら太ももの骨の頭は受け皿の中でくるっと回るだけなのですが、この方は骨の頭が前へずれながら動くクセがありました。このクセがあると、曲げるたびに前側のパッキンが押されて、ストレスが積み重なります。行進で脚を高く上げる動作の繰り返しが引き金と考えられました。
③ぶつかりの再現テスト
股関節を90°曲げて内側に倒し込むと、脚の付け根の痛みがそのまま再現されました(FADIRテストという検査です)。前側でぶつかりが起きていることの裏付けです。
④治療内容
- お尻の筋肉(大殿筋・外旋筋)の強化:太ももの骨の頭が前へずれるのを、後ろから支えて防ぐ
- ヒップヒンジ動作の習得:お尻を後ろに引きながら曲げる動作を覚えて、「深く曲げて内にひねる」ぶつかりやすい姿勢を日常から減らす
- お尻の深部のストレッチ:内へのひねりが硬いとぶつかりを助長するため、柔軟性を確保する
- 体幹・骨盤の安定化:骨盤が前に倒れすぎると前側のぶつかりが増えるため、支える力をつける
- マーチング動作の修正:脚上げの高さとひねりの量を調整し、ぶつかる角度を避けたフォームに変える
変形性股関節症の理学療法
変形性股関節症は、軟骨がすり減って股関節の変形が進んでいく状態です。「手術しかない」と思われがちですが、初期〜中期であれば理学療法で痛みと動きを大きく改善できます。
| 段階 | レントゲンの状態 | 理学療法の効果 |
|---|---|---|
| 初期 | 骨と骨のすき間が少し狭い | 高い(筋力強化・動作改善で症状コントロール可能) |
| 中期 | すき間が中等度狭い、骨のトゲ | 中(痛みの管理・歩行機能改善・手術の先延ばし) |
| 末期 | すき間の消失、骨の変形 | 低(人工股関節手術の検討。術前・術後リハビリが重要) |
自宅でできるセルフケア
1. ヒップヒンジ練習
壁を背にして立ち、お尻を後ろの壁に向けて突き出しながら前傾する(膝はわずかに曲げ、背中はまっすぐ)。「腰を丸めて曲げる」のでなく「股関節から折りたたむ」動きを体に覚えさせることで、日常の前かがみ動作でのぶつかりを予防します。
2. クラムシェル(お尻の筋トレ)
横向きに寝て膝を90°曲げ、足首をつけたまま上の膝を貝のように開く。10〜15回×3セット。太ももの骨の頭が前へずれるのを防ぐ筋力をつけます。
3. お尻の深部のストレッチ
仰向けで片足を4の字に組み(ふくらはぎをもう一方の太ももに乗せる)、下の脚の太ももを両手で抱えて胸方向に引く。15〜30秒×3セット。
4. 股関節の前側のストレッチ(片膝立ち)
片膝立ちになり、後ろ足側の股関節の前側を伸ばす。上体はまっすぐに保ち、腰を反らさない。15〜30秒×3セット。
よくある質問(Q&A)
Q1:MRIで関節唇損傷と言われましたが、手術が必要ですか?
A:関節唇損傷でも、理学療法で改善する場合が多くあります。特に、太ももの骨のすべりのクセの修正・お尻の筋力強化・動作の改善で症状が軽くなる例が多いです。手術(関節鏡での修復)は、保存療法を3〜6ヶ月続けても効果がない場合や、損傷が広い場合に検討されます。
Q2:変形性股関節症でウォーキングは続けていいですか?
A:適度なウォーキングは軟骨への栄養や筋力維持のために有益です。ただし「痛みが出るまで歩く」のは避けてください。目安は「歩いたあと2〜3時間で痛みが消える程度」。水中ウォーキングは関節への負担が少なく特に有効です。
Q3:若い(10〜20代)のに股関節が痛いのはなぜですか?
A:若い方の股関節痛は、FAI・股関節唇損傷・腸腰筋炎が多く見られます。特にダンス・マーチング・武道など、股関節を繰り返し大きく動かすスポーツで起こりやすいです。「成長痛だから仕方ない」と放置せず、早めに評価を受けることが重要です。
まとめ
- 股関節の問題は「脚の付け根の痛み」が典型。痛む場所から原因の見当をつけられる
- 太ももの骨が前へずれながら動くクセは、パッキン(関節唇)を傷める主因。お尻の筋力強化で修正する
- ヒップヒンジを覚えて、「深く曲げて内にひねる」ぶつかりやすい動きを日常から減らす
- 変形性股関節症も初期〜中期は理学療法で手術を先延ばし・回避できるケースが多い
- 若いスポーツ選手の付け根の痛みは「成長痛」と見過ごさず早期評価が重要
フィジオサロンキムラでは、股関節の動作分析・骨の動きのクセの評価・ぶつかりの再現テストを組み合わせた評価のもと、股関節痛の根本的な改善を目指した理学療法を提供しています。「股関節の奥が痛い」「手術以外の方法で治したい」という方はぜひご相談ください。
参考文献
- 木村晋一朗 臨床症例記録(股関節唇損傷・FAI)大学院実習記録, 2016-2017
- Griffin DR, et al. The Warwick Agreement on femoroacetabular impingement syndrome. Br J Sports Med. 2016
- Lewis CL, et al. Effect of Hip Angle on Anterior Hip Joint Force. J Biomech. 2010
- 変形性股関節症診療ガイドライン(日本整形外科学会)