肩が上がらない・夜も眠れない:四十肩・五十肩を理学療法士が根本から解説
2026/4/10
この記事で分かること
- ✓四十肩・五十肩の3つの病期(炎症期・拘縮期・回復期)と時期別の正解ケア
- ✓夜間痛が強い炎症期に動かしてはいけない理由
- ✓拘縮期の関節モビライゼーションと運動療法の進め方
「シャツを着るときに腕が上がらない」「夜中に肩が痛くて目が覚める」「もう半年以上ずっと痛い…」
こうした悩みを持つ40〜60代の方は非常に多く、整形外科では「五十肩ですね、様子を見ましょう」と言われて終わることも少なくありません。
しかし五十肩は放置してよい状態ではありません。時期に合わないケアを続けると、関節が固まる「拘縮(こうしゅく)」が進み、回復に年単位の時間がかかることもあります。
私は愛知県で理学療法士として活動する木村晋一朗です。大学院で肩関節の臨床研究を学び、これまで数多くの四十肩・五十肩の患者さんと向き合ってきました。本記事では、五十肩で肩の中に何が起きているのか、時期別に「やること・やってはいけないこと」がどう変わるのか、臨床でみてきた実例をもとに解説します。
- 四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)の正確な定義とメカニズム
- 夜間痛がひどくなる本当の理由
- 炎症期・拘縮期・回復期の病期別対処法
- 理学療法士による評価と治療アプローチ
- 自分でできるセルフケアと「やってはいけないこと」
四十肩・五十肩とは何か?「原因不明」という診断名
「四十肩」「五十肩」は俗称で、医学的には「肩関節周囲炎(かたかんせつしゅういえん)」と呼ばれます。ひとことで言うと、「はっきりした原因がないのに、40〜65歳ごろに肩が痛み、動かなくなっていく状態」です。
大事なのは「はっきりした原因がない」という部分です。肩のスジが実際に切れている「腱板断裂(けんばんだんれつ)」や、関節にカルシウムが溜まる「石灰沈着」など、原因が特定できるものは五十肩には含まれません。つまり五十肩とは、検査で原因が見つからない肩の痛みと動きの制限につけられる診断名なのです。だからこそ「様子を見ましょう」で終わりやすいとも言えます。
肩の中で何が起きているのか

肩の関節は、いくつかの組織に囲まれています。私が担当した方々では、主に次の場所がトラブルを起こしていました。
- 関節包(かんせつほう):関節全体を包む袋。ここが縮んで硬くなるのが五十肩の中心。特に袋の前上部にある靭帯(烏口上腕靭帯)が硬くなりやすい
- 滑液包(かつえきほう):動きを滑らかにするクッション。炎症を起こすと腫れて、痛みの主役になる
- 腱板(けんばん):肩を支えるインナーマッスル。働きが落ちると、腕の骨が正しい位置で動けなくなる
- 上腕二頭筋長頭腱:いわゆる力こぶの筋肉のスジ。肩の前側の痛みと関係しやすい
実際にみてきた例を挙げると、64歳の男性は石灰沈着を合併していて、夜も眠れないほどの痛みがありました。注射で痛みは10段階の10から1まで一気に楽になりましたが、それで終わりではありませんでした。関節を包む袋の硬さが残っていたため、そこからリハビリを続けてようやく腕が上がるようになったのです。「痛みが取れること」と「動くようになること」は別問題、というのが五十肩の難しさです。
「夜中に肩が痛くて眠れない」夜間痛のメカニズム
五十肩の患者さんが最も辛いと訴えるのが夜間痛(やかんつう)です。「昼間は我慢できるが、夜に横になると激痛で目が覚める」という訴えは非常に多く見られます。
夜だけ痛みが強くなるのには、ちゃんと理由が3つあります。
①横になると肩への圧力が変わる
横向きに寝ると重力のかかる方向が変わり、炎症を起こしている袋(滑液包・関節包)に圧力がかかります。特に痛い側を下にして寝ると、体重で圧迫されて痛みが強くなります。
②炎症を抑えるホルモンが夜は減る
体の中では、炎症を抑えるホルモン(コルチゾール)が昼に多く、夜に少なく分泌されています。そのため夜は炎症の火が消えにくく、痛みを感じやすくなります。リウマチなど他の炎症の病気で夜に症状が強くなるのも同じ理由です。
③夜は体が痛みに敏感になる
日中は活動や緊張で痛みがまぎれますが、夜のリラックスした状態では痛みへの感度が上がります。「夜になると痛みで頭がいっぱいになる」のは気のせいではなく、体の仕組みです。
炎症期の夜間痛は「安静」が基本。痛い側を上にした横向き寝や、タオルを脇に挟んで腕の位置を安定させることで軽減できることがあります。夜間痛が強い時期に無理なストレッチは禁忌です。
病期(ステージ)別の症状と正しい対処法
五十肩の最大の特徴は「病期(ステージ)によって正しい対処が180度異なる」ことです。炎症期にストレッチを頑張ると悪化し、拘縮期に大事をとって安静にしていると回復が遅れます。まず「自分が今どの時期か」を知ることが、何よりも先です。

第1期:炎症期(発症〜2〜6ヶ月)
| あなたはこの時期? | じっとしていてもズキズキする/夜中に痛みで目が覚める |
|---|---|
| 特徴 | 安静時痛・夜間痛が強い。関節の中で炎症が起きている状態 |
| やること | アイシング(炎症部位を冷却)、安静、必要に応じて注射(整形外科) |
| やってはいけないこと | 痛みを我慢して動かす・強いストレッチ(炎症が悪化する) |
先ほどの64歳の男性はまさにこの時期でした。もしこの段階で「動かして治そう」と可動域訓練を頑張っていたら、炎症が長引いていた可能性が高いです。頑張りどころは今ではない、というのが炎症期です。
第2期:拘縮期(2〜12ヶ月)
| あなたはこの時期? | 痛みはマシになったが、腕が上がらない/背中に手が回らない |
|---|---|
| 特徴 | 炎症は落ち着くが、関節を包む袋が縮んで硬くなり、動きが制限される |
| やること | 関節可動域訓練(モビライゼーション)、腱板のトレーニング、温める |
| やってはいけないこと | 安静にしすぎる(拘縮が進行する) |
48歳の男性の例では、腕は前に145°・横に130°までしか上がらず、背中に手を回すと腰のあたりまでしか届きませんでした(シャツの裾を入れる動作ができないレベルです)。ただ、痛みの敏感さは低くなっていたので、しっかり関節を動かす治療に切り替えられました。この「切り替えの見極め」が回復のスピードを左右します。
第3期:回復期(6〜26ヶ月)
| あなたはこの時期? | 日常はほぼ困らないが、バンザイの最後や背中の高い位置だけ届かない |
|---|---|
| 特徴 | 徐々に可動域が回復する。外にひねる動きと背中に手を回す動きが最後まで残りやすい |
| やること | 残っている動きの制限に対して、運動療法と自主訓練を続ける |
| やってはいけないこと | 「楽になったから」と自主訓練をやめる(再拘縮のリスクがある) |
理学療法士はどのように評価・治療するのか
「様子を見ましょう」で終わらせないために、理学療法士が肩の何を・どの順番で見ているのか。種明かしをします。

①その痛みは「どの種類」の痛みか
同じ「肩が痛い」でも、原因のタイプが違えば治療は変わります。私が問診で最初に見分けているのは次の3つです。
- 炎症や組織の傷そのものによる痛み:炎症期に多い。休むと軽くなり、動かすと痛む
- 神経が関係する痛み:「手に走るような痛み・しびれ」を伴う。首の病気と見分ける必要がある
- 長引いて脳が敏感になった痛み:慢性化した方に多い。触るだけで痛い、痛む範囲がどんどん広がる
たとえば48歳の男性は「手に走るような痛み」があり、一見すると神経の問題を疑う症状でした。しかし神経の検査を一つずつ行った結果、原因は肩の関節そのもので、離れた場所に痛みが響いていただけと判断できました。ここを見誤ると、効かない治療を延々と続けることになります。
②肩の「機嫌」を見る——どこまで動かしてよいか
次に見るのが、その肩がどれくらい刺激に敏感になっているか(専門用語でイリタビリティと言います)。これで「今どこまで積極的に動かしてよいか」が決まります。
| 肩の状態 | 特徴 | 治療方針 |
|---|---|---|
| 敏感(High) | 少しの動作で強い痛みが出て長時間続く | 安静、アイシング、痛みを出さない範囲のみ |
| 中間(Moderate) | 動作で痛みが出るが比較的早く治まる | 軽めに関節を動かし、様子を見ながら進める |
| 落ち着いている(Low) | 痛みが出にくく、出ても短時間で消える | 積極的な可動域訓練・強度のある運動療法 |
③動きの制限パターンから、硬い場所を特定して治療する
五十肩には典型的な「動かない順番」があります。外にひねる動きが最も制限され、次に横に上げる動き、そして背中に手を回す動き。この順番どおりに制限されていれば、関節を包む袋が硬くなっているサインです(専門的には関節包パターンと呼びます)。
硬い場所が特定できたら、治療の中心は徒手療法(関節モビライゼーション)です。縮んで硬くなった袋や靭帯に、理学療法士が手で少しずつ伸びる方向の動きを加えて、可動域を取り戻していきます。あわせて、肩甲骨の動きの改善と、腕の骨を正しい位置で動かすためのインナーマッスル(腱板)のトレーニングを組み合わせます。
47歳の女性の例では、まさにこの典型パターンの制限があり、関節の袋を伸ばす徒手療法を中心に進めることで回復につながりました。
自分でできる五十肩のセルフケア【病期別】
炎症期(夜間痛・安静時痛がある時期)
- アイシング:1日2〜3回、15〜20分。氷水をビニール袋に入れてタオルで包んで患部に当てる
- 患側の安静:腕を下げた状態を保ち、痛みを誘発する動作を避ける
- 就寝ポジション:痛い側を上にした横向き寝、または仰向けで腕の下にタオルを入れて少し開いた位置に
拘縮期(痛みが和らいで動きが悪い時期)
- 振り子運動(コッドマン体操):前かがみになり、痛い側の腕の力を抜いてぶら下げ、前後・左右・円を描くように揺らす。1回30秒×3セット
- 外ひねりストレッチ:肘を90°に曲げて体の脇につけ、前腕を外側に開く。タオルやドアの枠を使う方法も有効
- バンザイ練習:仰向けに寝て、両手で棒やタオルを持ち、頭の上へ上げていく。寝て行うと重力に助けられ、無理なく動かせる
よくある質問(Q&A)
Q1:五十肩は放置しても自然に治りますか?
A:「自然に治る」とよく言われますが、適切な治療なしに完全に回復するケースは少数です。研究では、未治療の場合40〜50%の方で2〜3年以上症状が残るという報告があります。特に関節が固まってしまった後は、セルフケアだけで取り戻すのは難しくなります。
Q2:注射と理学療法はどちらが効果的ですか?
A:時期によって役割が違います。炎症期は注射(ステロイド・ヒアルロン酸)が痛みを抑えるのに有効です。拘縮期は関節の動きを取り戻す理学療法が中心になります。私が担当した方でも、注射で痛みが10段階の10から1まで下がったあと、残った関節の硬さに対してリハビリを続けて回復しました。「注射で痛みを消し、理学療法で動きを取り戻す」という組み合わせが基本です。
Q3:何科を受診すればいいですか?
A:まず整形外科を受診してください。腱板断裂・石灰沈着・首の病気など、五十肩以外の原因を除外することが重要です。その後、理学療法士によるリハビリテーションを受けることをお勧めします。「様子を見ましょう」だけで終わった場合は、理学療法士のいるクリニックへの変更も検討してください。
Q4:仕事中・日常生活で気をつけることは?
A:炎症期は腕を高く上げる動作(棚の上のものを取る・洗濯を干すなど)をできるだけ避けましょう。拘縮期からは意識的に腕を動かすことが重要です。デスクワークの方は、肩甲骨を寄せる「肩甲骨体操」を1時間に1回行うだけでも効果があります。
Q5:五十肩と腱板断裂はどう違いますか?
A:五十肩は原因不明の炎症と拘縮、腱板断裂は肩を支えるスジ(インナーマッスル)が実際に切れている状態です。腱板断裂では「力が入らない」「特定の角度でだけ痛い」といった症状が特徴的です。MRIやエコー検査で見分けられます。
まとめ:五十肩は「今どの時期か」を見極めることが回復の鍵
四十肩・五十肩について、重要なポイントをまとめます。
- まず「炎症期・拘縮期・回復期のどこにいるか」の判断が最優先。時期を誤ったケアは悪化を招く
- 夜間痛が強い炎症期は安静とアイシングが基本。痛みを我慢して動かしてはいけない
- 痛みが落ち着いた拘縮期は、逆にしっかり動かす時期。ここでの安静は回復を遅らせる
- 注射で痛みを抑え、理学療法で動きを取り戻す組み合わせが基本
- 「自然に治る」という思い込みは危険。長引かせないためには時期に合った対処が必要
フィジオサロンキムラでは、今どの時期かの見極めと痛みのタイプの分析に基づいて、一人ひとりに合わせた五十肩のリハビリプログラムを提供しています。「もう何ヶ月も痛い」「整形外科で様子見と言われた」という方はぜひご相談ください。
参考文献・出典
- 日本理学療法士協会 理学療法ハンドブック シリーズ13「肩関節周囲炎」
- Muraki T, et al. 肩関節周囲炎 理学療法診療ガイドライン. 理学療法学 43(1), 2016
- 木村晋一朗 臨床症例記録(肩関節周囲炎 症例①②③)大学院実習記録, 2015-2016
- Maitland GD. Peripheral Manipulation. 4th ed. Butterworth-Heinemann, 2005