肩が上がらない・夜も眠れない:四十肩・五十肩を理学療法士が根本から解説

「シャツを着るときに腕が上がらない」「夜中に肩が痛くて目が覚める」「もう半年以上ずっと痛い…」
こうした悩みを持つ40〜60代の方は非常に多く、整形外科では「五十肩ですね、様子を見ましょう」と言われて終わることも少なくありません。
しかし五十肩(肩関節周囲炎)は放置してよい病気ではありません。適切な時期に適切なアプローチをしなければ、拘縮(関節の固まり)が進行し、回復に年単位の時間がかかることもあります。
私は愛知県で理学療法士として活動する木村晋一朗です。大学院で肩関節の臨床研究を学び、これまで数多くの四十肩・五十肩の患者さんと向き合ってきました。本記事では、五十肩の本当のメカニズムから病期別の対処法、そして理学療法士が行う具体的な治療まで、一次情報をもとに解説します。

- 四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)の正確な定義とメカニズム
- 夜間痛がひどくなる本当の理由
- 炎症期・拘縮期・回復期の病期別対処法
- 理学療法士による評価と治療アプローチ(一次情報)
- 自分でできるセルフケアと「やってはいけないこと」
四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)とは何か?正確な定義を知る
「四十肩」「五十肩」は俗称であり、医学的には「肩関節周囲炎(けんかんせつしゅういえん)」と呼ばれます。日本整形外科学会の定義では、「明らかな原因がなく、40〜65歳に好発する肩関節部の疼痛と運動制限を呈する疾患」とされています。
重要なのは「明らかな原因がない」という点です。腱板断裂や石灰沈着性腱炎など、明確な病変がある場合は含まれません。つまり五十肩は「原因不明の肩の痛みと動きの制限」という診断名なのです。
関節包・腱板・滑液包—どこが問題を起こしているのか

私が担当した症例では、評価の結果として以下の組織が関与していることが多くありました(一次情報):
- 肩甲上腕関節(関節包・靱帯):最も多い。特に烏口上腕靭帯の線維化・短縮
- 肩峰下滑液包:炎症期に腫脹して痛みの主因となる
- 腱板筋群(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋):機能低下により肩甲上腕リズムが崩れる
- 上腕二頭筋長頭腱:前面の痛みと関連することが多い
実際の症例①(64歳男性・石灰沈着性腱炎合併)では、これらすべての組織が関与しており、注射でNRS10→1と劇的に改善した後も、関節包の制限が残存していたため理学療法継続が必要でした。
「夜中に肩が痛くて眠れない」夜間痛のメカニズム
五十肩の患者さんが最も辛いと訴えるのが夜間痛(やかんつう)です。「昼間は我慢できるが、夜に横になると激痛で目が覚める」という訴えは非常に多く見られます。
夜間痛が起こる主な理由は3つあります。
①横になることで関節内圧が変化する
横臥位(横向き寝)では肩関節への重力の方向が変わり、炎症を起こしている滑液包や関節包への圧力が増加します。特に患側を下にして寝ると、体重で圧迫されて痛みが増強します。
②副腎皮質ホルモンの分泌低下
コルチゾール(抗炎症作用を持つホルモン)は昼間に多く分泌され、夜間は減少します。そのため、夜間は炎症反応が抑制されにくく、痛みを感じやすくなります。これはリウマチや他の炎症性疾患でも同様です。
③交感神経の低下による痛み閾値の変化
日中は交感神経が優位でストレスや活動により痛みが抑制されますが(デフォルトモード)、夜間は副交感神経優位となり、痛みへの感受性が高まります。
炎症期の夜間痛は「安静」が基本。患側を上にした横向き寝や、タオルを脇に挟んでアームポジションを安定させることで軽減できることがあります。夜間痛が強い時期に無理なストレッチは禁忌です。
病期(ステージ)別の症状と正しい対処法
五十肩の最大の特徴は「病期(ステージ)によって正しい治療が180度異なる」ことです。炎症期に積極的なストレッチをすると悪化し、拘縮期に安静にしていると回復が遅れます。

第1期:炎症期(発症〜2〜6ヶ月)
| 特徴 | 安静時痛・夜間痛が強い。関節内に炎症が起きている状態 |
|---|---|
| 主訴 | 「何もしなくても痛い」「夜眠れない」 |
| やること | アイシング(炎症部位を冷却)、安静、必要に応じて注射(ステロイド) |
| やってはいけないこと | 痛みを我慢して動かす・強いストレッチ(炎症が悪化する) |
私の症例①(64歳男性)では石灰沈着による炎症が強く、注射でNRS10→1と改善しましたが、この時期に強い可動域訓練を行っていたら炎症が遷延していた可能性があります。
第2期:拘縮期(2〜12ヶ月)
| 特徴 | 炎症は落ち着くが、関節包・靱帯の線維化・短縮が進み動きが制限される |
|---|---|
| 主訴 | 「痛みはマシになったが、肩が上がらない」「洋服が着られない」 |
| やること | 関節可動域訓練(モビライゼーション)、腱板機能訓練、温熱療法 |
| やってはいけないこと | 安静にしすぎる(拘縮が進行する) |
症例②(48歳男性)では「屈曲145°・外転130°・HBB L3」と典型的な拘縮期の所見を認めました。疼痛メカニズムは侵害受容性優位でイリタビリティは低く、積極的な関節モビライゼーションが適応でした。
第3期:回復期(6〜26ヶ月)
| 特徴 | 徐々に可動域が回復する。最後まで残りやすい方向(外旋・HBB)に注意 |
|---|---|
| 主訴 | 「だいぶ楽になったが、まだ完全に上がらない」 |
| やること | 残存する可動域制限に対して継続的な運動療法・自主訓練 |
| やってはいけないこと | 「楽になったから」と自主訓練をやめる(再拘縮のリスクがある) |
理学療法士はどのように評価・治療するのか(一次情報)
「様子を見ましょう」で終わらせない理学療法士の評価と治療を紹介します。

①詳細な問診(疼痛メカニズムの判定)
私が臨床で重視しているのが「疼痛メカニズム」の判定です。同じ「肩が痛い」でも、以下のように原因が異なれば治療が変わります。
- 侵害受容性疼痛(炎症・組織損傷):炎症期に多い。安静で軽減し、動作で増悪
- 神経障害性疼痛(末梢神経の関与):「手に走るような痛み・しびれ」を伴う。頚椎疾患との鑑別が必要
- 中枢感作(慢性疼痛):長期化した症例に多い。触るだけで痛い、広範囲の痛みなど
症例②(48歳男性)では「手に走るような痛み」があり末梢神経原性疼痛も考慮しましたが、詳細な神経学的評価により肩甲上腕関節由来の関連痛と判断しました。
②イリタビリティの評価
「イリタビリティ(刺激性)」とは、「その関節がどれだけ炎症反応を起こしやすい状態か」を示す指標です。これによって、どの程度積極的に動かしてよいかの判断が変わります。
| イリタビリティ | 特徴 | 治療方針 |
|---|---|---|
| High(高) | 少しの動作で強い痛みが出て長時間続く | 安静、アイシング、痛みを出さない範囲のみ |
| Moderate(中) | 動作で痛みが出るが比較的早く治まる | 軽度のモビライゼーション、慎重に進める |
| Low(低) | 痛みが出にくく、出ても短時間で消える | 積極的な可動域訓練・強度のある運動療法 |
③可動域評価と関節パターンの確認
五十肩の典型的な所見は「関節包パターン(Capsular pattern)」と呼ばれます。これは外旋>外転>内旋の順で可動域が制限されるパターンで、関節包・靱帯の線維化を示す重要な所見です。
症例③(47歳女性)では、外旋・外転・内旋(HBB)の典型的な関節包パターンを認め、メイトランド法による関節モビライゼーションを選択しました。
④徒手療法(関節モビライゼーション)
拘縮期の治療の中心は関節モビライゼーションです。短縮した関節包・烏口上腕靭帯に対して、理学療法士が徒手的にグレードに応じた動きを加えていきます。
- メイトランド法:骨の動きを直接操作して関節包の伸張性を回復させる
- 肩甲胸郭関節のモビライゼーション:肩甲骨の動きを改善し、肩甲上腕リズムを正常化
- 腱板機能訓練:インナーマッスル(腱板)の機能を回復させて上腕骨頭の求心性を高める
自分でできる五十肩のセルフケア【病期別】
炎症期(夜間痛・安静時痛がある時期)
- アイシング:1日2〜3回、15〜20分。氷水をビニール袋に入れてタオルで包んで患部に当てる
- 患側の安静:腕を下げた状態を保ち、痛みを誘発する動作を避ける
- 就寝ポジション:患側を上にした横向き寝、または仰向けで患腕の下にタオルを入れて外転位に
拘縮期(痛みが和らいで動きが悪い時期)
- 振り子運動(コッドマン体操):前傾姿勢で患腕を力を抜いてぶら下げ、前後・左右・円を描くように動かす。1回30秒×3セット
- 外旋ストレッチ:肘を90°に曲げて体の脇につけ、外側に開く。タオルやドアフレームを使う方法も有効
- バンザイ練習:仰向けに寝て、両手で棒やタオルを持ち、頭上に上げていく。重力を利用して無理なく行う
よくある質問(Q&A)
Q1:五十肩は放置しても自然に治りますか?
A:「自然治癒する」とよく言われますが、適切な治療なしに完全に回復するケースは少数です。研究では、未治療の場合、40〜50%の患者で長期間(2〜3年以上)症状が残るという報告があります。特に拘縮が進んだ場合は、セルフケアだけでは回復が困難なことが多いです。
Q2:注射と理学療法はどちらが効果的ですか?
A:病期によって異なります。炎症期は注射(ステロイド・ヒアルロン酸)が有効で痛みを急速に改善します。拘縮期は関節可動域訓練など理学療法が中心です。私の担当症例①では注射でNRS10→1と劇的改善後、関節包の拘縮に対して理学療法を継続しました。最も効果的なのは「注射+理学療法の組み合わせ」です。
Q3:何科を受診すればいいですか?
A:まず整形外科を受診してください。腱板断裂・石灰沈着・頚椎疾患などの除外診断が重要です。その後、理学療法士によるリハビリテーションを受けることをお勧めします。「様子を見ましょう」だけで終わった場合は、理学療法士のいるクリニックへの変更も検討してください。
Q4:仕事中・日常生活で気をつけることは?
A:炎症期は腕を高く上げる動作(棚の上のものを取る・洗濯を干すなど)をできるだけ避けましょう。拘縮期からは意識的に腕を動かすことが重要です。デスクワークの方は、肩甲骨を寄せる「肩甲骨体操」を1時間に1回行うだけでも効果があります。
Q5:五十肩と腱板断裂はどう違いますか?
A:五十肩は原因不明の炎症・拘縮、腱板断裂は腱板(肩のインナーマッスル)が実際に切れている状態です。腱板断裂では「力が入らない(脱力感)」「特定の角度でのみ痛い(arc pain)」などの症状が特徴的です。MRIやエコー検査で鑑別できます。
まとめ:五十肩は「病期を見極めた治療」が回復の鍵
四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)について、重要なポイントをまとめます:
- 病期(炎症期・拘縮期・回復期)を正確に判断することが最優先。時期を誤った治療は悪化を招く
- 夜間痛が強い炎症期は安静とアイシングが基本。痛みを我慢して動かしてはいけない
- 拘縮期は積極的な関節モビライゼーションと運動療法が必要。この時期の安静は回復を遅らせる
- 注射(ステロイド)+理学療法の組み合わせが最も効果的
- 「自然に治る」という思い込みは危険。適切な治療なしでは長期化するリスクがある
フィジオサロンキムラでは、病期の正確な評価と疼痛メカニズムの分析に基づき、一人ひとりに最適化された五十肩のリハビリプログラムを提供しています。「もう何ヶ月も痛い」「整形外科で様子見と言われた」という方はぜひご相談ください。
愛知県・フィジオサロンキムラ|理学療法士 木村晋一朗
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参考文献・出典
- 日本理学療法士協会 理学療法ハンドブック シリーズ13「肩関節周囲炎」
- Muraki T, et al. 肩関節周囲炎 理学療法診療ガイドライン. 理学療法学 43(1), 2016
- 木村晋一朗 臨床症例記録(肩関節周囲炎 症例①②③)大学院実習記録, 2015-2016
- Maitland GD. Peripheral Manipulation. 4th ed. Butterworth-Heinemann, 2005
